市民はねじを巻く

市民はねじを巻くにようこそ。読書ブログです。今日も誰かのねじを静かに巻いています

「ユーザ中心ウェブサイト戦略」UXはこうして作られる

読者に感動を与えるようなウェブサイトは、どのようにして作られるのか。

UX(ユーザエクスペリエンス)は発信元が目指すべき1つの指標ではあれど、具体的に何から手をつけたら良いかイメージが掴めない人がほとんどだろう。それも企業に属さず、個人で制作している人々にとっては「やりたいけど、やり方の検討がつかない」分野になるのではないのだろうか。

「ユーザ中心ウェブサイト戦略」は、商業的に化粧品会社など大手メディアが実践しているユーザ中心戦略について、体系的に丁寧に解説された本だ。Webメディアのマニュアル本と言っても、差し支えないかもしれない。

個人制作でウェブサイトをしている人にとって大企業の体系化されたマニュアルは、喉から手が出るほど欲しい情報だろう。

ユーザ中心ウェブサイト戦略 仮説検証アプローチによるユーザビリティサイエンスの実践

ユーザ中心ウェブサイト戦略 仮説検証アプローチによるユーザビリティサイエンスの実践

  • 作者: 株式会社ビービット武井由紀子,遠藤直紀
  • 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
  • 発売日: 2006/09/27
  • メディア: 単行本
  • 購入: 14人 クリック: 313回
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本の内容は結構硬い印象。「ユーザ中心」というフレーズが、個人のセンスに依存したどこからクリエイティブなイメージを抱かせるかもしれないが、本書はあくまで「ユーザ中心」を目指すために必要なプロセスが解説されている。腰を据えて読みたい技術本て感じだ。

出版社からのコメント
マーケティングの大家フィリップ・コトラーは著書の中で、
「マーケティングの役割とは、絶えず変化する人々のニーズを収益機会に転化すること」と説明している。
本書で説明する「ユーザ中心設計手法」は、コトラーの定義をインターネットにあてはめ、
収益の実現手法を組み入れたものであると言える。
つまりユーザ中心設計手法とは、「絶えず変化する人々の行動やニーズを把握し、
インターネットを通じた企業の収益機会を実現する」ためのものである。
コトラーが述べているように、ユーザを正しく知るということが偉大な成果をもたらす要になる。
ただし、このユーザ中心設計手法を本格的に実施しようとすると、多くの時間と労力が必要なのは否定できない。
すべてを実施しようとするのではなく、まずは手法の一部分だけでよいので
普段のサイト運営の中に取り入れてみることをお勧めする。
たとえば、サイトのデザイン案を同僚に使ってもらう「簡易ユーザ行動観察調査」を行うだけでもよい。
これならたった5分でできる上に、「仮説を立ててそれを実際のユーザで検証する」
というユーザ中心設計の神髄に触れることができる。
そして、多くの示唆をもたらしてくれるだろう。
さらに、実際にこの手法を実践してみると想像していたほど大変ではないことに気づくはずである。
むしろ、実践した方がかえって楽になる感覚すらあるかもしれない。
なぜなら、仮説検証を繰り返すことでひとつひとつの意思決定が論理的に下せるようになるからである。
このようにしてノウハウが蓄積されていくと、それだけサイト運営は明確な指針の下に勧められ、
それに伴い大きな成果がもたらされるようになる。
仮説を立てて、それを実際のユーザで検証する。
たたこれだけのことが、変化し続けるユーザに有効にアプローチし、
それを継続的に成果につなげていくための秘訣である。
作っては試し、試しては直すという、地道で泥臭い作業の中にユーザの真実が隠されている。

(「まえがき」より)

この本で凄いと思ったのは「利用者にとって価値があるウェブを作るには、リサーチよりも利用者を巻き込むウェブ作りをすること」を理念としていること。

目次
序章
第I部 理論編 ウェブビジネスを成功に導く方法論
第1章 ユーザ中心思想の背景とネットユーザ行動特性
第2章 ユーザ中心設計手法とは
第3章 ユーザ中心設計を進めるツール
第II部 実践編 ユーザ中心設計の進め方
第1章 サイトコンセプトの立案
第2章 サイトコンセプトの検証
第3章 サイト基本導線設計と検証
第4章 サイト詳細画面設計と検証
第5章 サイトの運用

コンセプト策定の段階はプロが中心となり、そのレビュー活動に利用者を巻き込んで検証を進めるのが、ユーザ中心ウェブの基本方針となる。利用者を巻き込まずして、ユーザ中心のウェブはなり得えない。利用者と協業することこそが近道。

また、やるべきことを全てプロセス化させていることで、地に足ついた仮説検証がきちんと行えるようになっている点も素晴らしい。

個人ブロガーでも自分の書いた記事を知り合いに読んでもらいレビューを貰う、Googleアナリティクスを使ってページ遷移、ページごとの直帰率を調査することは容易にできる。

でもそれって、独りよがりな作業になりがちではないだろうか。逆に頑張っているつもりでも悪循環になっているケースもある。そういう意味で「一人よがりではUX志向のウェブは難しい」と改めて気付かされた。

これはウェブに限った話ではなく、イノベーションが必要な分野全てに言えるのではないだろうか。「デザイン思考 | 0から1を創るイノベーション入門 - 市民はねじを巻く」の記事で書いたけど、人間中心のアプローチは変化の激しいこれからの時代、必ず必要なスキルになっていくと思う。要するに「利用者側をいかに巻き込むか」かが鍵になりそう。

では、どうやって人を巻き込むのか。「ユーザ中心ウェブサイト戦略」ではユーザに意見を聞く時にはこのようなアプローチをとる。

  • 被験者サンプルを年齢別に10人以上ずつ集募集する
  • 被験者には報酬を支払う
  • 被験者の日々のネットサーフィンの仕方/ブックマークしているサイト/ネットショッピングの頻度など情報をインタビューする
  • 自サイトをユーザに操作して貰い、その操作をビデオカメラでモニタリング
  • サイト全体の印象、LPについての感想をヒアリング
  • ユーザのレビューをまとめ、サイトを改善(もちろんPV数の変化などもチェック)
  • 再度ユーザにサイトを利用してもらい、また意見をもらったら改善を繰り返す

ホント取り組みが企業的。勝手な思い込みやセンスに頼らないサンプル主義。

しかしまあ個人ブロガーにとって、報酬を払って被験者を集めるところが既にハードルが高いところだよね。

費用対効果も定かでないし、被験者を集めるだけのコネクションもある人の方が少ないだろうし。

しかしその分「仲良しのママ友10人集めましたー!」よりは、新鮮で意義のあるサンプルを得られそうではある。

自サイトにどこまで投資するかによるだろうが、確実にサイトを良くしたいのなら、こうした活動はかなり有効なのだろう。終始「ここまでやる気力とリソースはないなー」と、ため息が出そうな部分はあるが、出来る範囲で真似ていきたいものである。