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【読書レビュー・感想】GOTH番外篇 森野は記念写真を撮りに行くの巻

GOTH(ゴス)。本格ミステリ大賞受賞作品。2008年に映画化。

GOTHはゴシック・ロック(サブカルチャーの1つ)を意味する。作中にGOTHにまつわる記述はなく、おそらくこの小説の世界観、漆黒、暗黒を表している。

もともとはライトノベル作品であったが、作者も意図せず本格ミステリ大賞を受賞した作品。当時、ライトノベルで本格ミステリ大賞をとったのは本作が初めて。

GOTHは上下巻で全2部作になっている。上巻「夜の章」、下巻が「僕の章」。「森野は記念写真を撮りに行くの巻」はGOTH番外編にあたる作品。


GOTHの上下巻を初めて読んだのは、たしか高校生くらいだったと思う。28歳のいまになって番外編の存在を知り、ふと懐かしくなって3作合本をkindle書籍で購入した。

私が高校生の頃、たしか15才くらいか。当時、GOTHの暗黒面にえらく惹かれた覚えがある。

さて本作のヒロインである「森野夜」を紹介しよう。番外編のタイトルにある「森野」は本作ヒロインのことなんです。

彼女は、いつも上下黒い服を着て(それなんて黒桐幹也?)美人だけど性格は塞ぎ込んでいて、猟奇殺人を調べるのと「自分の首を締めるための縄を集めるのが好き」という一風変わった趣味を持ち、腕にはリストカットの跡があり、身体のどこかしらに包や傷跡があり、犬が苦手で、それでいて主人公には心開いている。

...

このぼっち系暗黒ヒロイン属性が、当時の僕にはドストライクな女の子だったわけです。そして今回は十数年の時を経て、彼女にもう一度会ってきた訳です。つまり、番外編を読むため上下巻も今一度読み返したということになります。

さすがに大筋は覚えていたけど、完全に忘却の彼方に消えていた部分がほとんどだった。おもしろかったのは、高校生の頃の私は森野夜に夢中だったわけですが、いまは犯人達(猟奇殺人者)の行動原理に夢中になった。

彼らは自分が異常だって分かってる、気付いてる。倫理観も人並みにあるし、社会性だって良心だってあるのだ。それでも。それでも、自分の内にある衝動を抑えられない。

ひょっとして、ヒトはこうやって自分に素直になる過程で、誰しもが猟奇殺人者になった可能性はあるのではないだろうか。ジョジョの奇妙な冒険の「吉良吉影」みたいなものです。いやいや! 自分にはそんな特殊性癖はないと思っているあなた、”イマ”はまだ見つけてないだけで、いずれは発見するかもしれませんよ?


番外編の感想の話。

タイトルが「の巻」になってるので、ラブコメとかパロディ色強い内容なのでは? なんて思ってたが普通に読み応えあるミステリでした。

...「記念写真を撮りに行くって」、いまだったら「インスタ写真を撮りに行く」とかになるんですかね。森野夜だったら、現代でも記念写真の表現の方を使いそうな気はしますが。私としてもできるだけそっちであってほしい。

番外編を読み終えた後、この犯人の行動原理は何かしら"モノを書くヒト、撮るヒト"に通ずる部分があるなあ、と思っていたわけです。それがそのはず、あとがきにばっちりあるじゃないか。

「森野は記念写真を撮りに行くの巻」は乙一さんを投身した「エッセイ」なんだそうで。本人曰く、普段はこういった書き方はしないようなので、乙一作品の中ではレアな部類かと。はたしてそれが「小説家の乙一」か「映画製作人の乙一」としてかまでは分からなかったけど、その共通点がここに見えました気がします。


最後に、GOTHについても発見があったの紹介したい。高校生当時のあの頃は、あとがきまで読まなかったから気付かなかった。

あとがきによるとGOTHは「現代版・百鬼夜行」を猟奇殺人者に見立てた作品だそうで。うへえ、そういうことだったのか。これを知って、なんだか憑物がストンと落ちたような感覚を覚えました。


そういえばGOTH作中に吉良吉影のオマージュらしき猟奇殺人者が出ているので、乙一さん吉良吉影好きな可能性さえありますね。

GOTH【3冊 合本版】 『夜の章』『僕の章』『番外篇』 (角川文庫)

GOTH【3冊 合本版】 『夜の章』『僕の章』『番外篇』 (角川文庫)